ジキルとハイドな彼
「乾杯」

コウが艶やかに微笑み、真紅の液体が注がれたグラスを差し出すと「乾杯」と言って、私たちもそっとグラスを重ねる。

そっと口に含むと重厚な味わいとベリーのような香りが鼻腔をくすぐる。

「あっ…」思わず口から溜息が漏れた。

「ん、おいし」うっとりとグラスを見つめる。

「なんか薫さんエロいですね」小鳥遊がマジマジと言うと、コウは咽せた。

「やだなー葛城さん、興奮しちゃってー」

小鳥遊が肩をすくめるとコウは無言のままその頭をはたく。

らしからぬ振舞いに私はギョッと目を見張るが、取り繕うようにコウは二コリと微笑んだ。

結局、この間お茶した骨董品店にて三人で軽く一杯やっていく事となった。

「ってゆーか、あなたまでどうして一緒にいるの」眉根を寄せて小鳥遊を一瞥する。

「そりゃあ美味しいお酒はみんなで飲むに限るって言うじゃないですか」

小鳥遊はニコニコ笑いながら私の背中に手を回し肩をポンポンと叩く。

明るい所で見ると小鳥遊はなかなかカワイイ。

少し長めの茶色い髪に小さな顔。

クリッとした目はいつも何か興味深そうに追って素早く動いている。

背は高くないがスレンダーで、スーツの趣味もなかなかよい。

黙っていれば、完璧な好青年だ。

…あくまで黙っていれば、の話し。

口を開くと態度は軽くて生意気で、そして何よりやかましい。

「私の分が減るじゃない」ジト目で睨み返す。

「そう言われると思って」ニヤっと笑い紙袋から何かを取り出す。

じゃーん!と言って小鳥遊は机にシャンパンのボトルをおいた。

「CAVA!」私は目をキラキラ輝かせる。

「おつまみもありますよー」

続けて紙袋から数種類の小分けになったチーズとドライイチジク、生ハムを取り出した。

「さっき買い足して来ました」得意げにニヤリと笑う。軽いが小鳥遊は気が利くようだ。
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