ジキルとハイドな彼
「こら、小鳥遊イジメすぎ」コウは冗談っぽく睨みつける。

「葛城さんだっておかしいと思ってるくせに」

小鳥遊は横目でチラリと恨みがましい視線を送る。

「薫、見せて」そっとネックレスのダイヤモンドに触れる。

コウが近づくとふわりとよい香りがして思わずどきりとする。

「とてもキレイだ。きっと本物に違いないよ」

ダイヤモンドにも遜色とらない輝くような笑顔を向けられる。

コウが本物、と言ってくれると、何だか絶対に本物だという気がしてくるので不思議である。

「ありがとう。そう言ってくれたのはあなただけよ、コウ。女子会でも非情な吊るし上げをくらったわ」

私は肩をすくめるコウは口の端を上げてクスりと笑う。

「聡を知ってる友人はインチキ臭い男呼ばわりよ。彼って少しミステリアスな所があるから」

ミステリアス?コウは首を傾げて聞きかえす。

「あまり自分の事を話したがらない、というか謎が多いの」

「じゃあ、薫さんは聡のことあまりよく知らないんだ」

小鳥遊が無邪気に鋭いツッコミを入れてくる。

「し、知ってるわよ。色々」

「どんなこと?」小鳥遊の目がキラリと光り興味深そうに私を捉えた。

「お酒はワイルドターキーが好きで愛読書はドストエフスキー。仕事もバリバリ出来るけど、ちょっとそそっかしい一面がある」

またそんなトコもカワイイのだけど、という台詞はグッと飲み込む。

「へえ、例えば?」コウが続きを促す。

「私の部屋に仕事用のアタッシュケースとかをたまに置いてっちゃうのよ。だから、たまに部下の人に届けてあげたりしてるの」

慌てて連絡して来る聡を思いだし、思わず頬が緩む。

しかし、それとは裏腹にコウと小鳥遊は目を大きく見開き言葉を失っている様子だ。
< 36 / 302 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop