ジキルとハイドな彼
「…あれ、私何かおかしなこと言ったかしら」

「…いや、中に大事な書類が入っていたら大変だと思って。今個人情報とかうるさいご時世だから」

コウが取り繕うように言う。

「部下って、どんな人」小鳥遊が尋ねる。

「基本的には若い子が多いわね。インテリアを扱う職種だから殆どみんなラフな格好をしてるかな」

「でも会ったことがない人なのに、どうして部下だってわかるの?」今度はコウから質問される。

「待ち合わせ場所は指定してあるし、予めお互いの人と成りは聞いているもの。それに携帯電話の連絡先も教えてもらってるの」

コウは顎に手をあて少し考え込んでから再び質問をしてくる。

「薫はさ、アタッシュケースの中身とか見たこと、ある?」

大きな瞳でジッと見つめられるので、場違いにドキドキしてしまう。

「ないわ。いつも鍵がかかってるし」

そうか…と言ったきりコウは黙り込んだ。

「ちなみに彼ってどの辺に住んでるんすか?」今度は小鳥遊が尋ねる。

「自由が丘よ」

「ああ、俺も自由が丘だよ。奇遇だね。どちらかと言えば奥沢よりだけど」

「そうなの?!私の友人がその辺りのカフェで働いてるんだけど。graniteっていうお店知らない?」

「うーん、知らないな。あの辺結構お店あるから」と言って肩をすくめる。

「近いから今度是非行ってみてー。豆乳黒蜜パンケーキが美味しいよ」

是非、と言ってニッコリ笑い小鳥遊はワインを飲む。

「今晩その子も一緒に飲んでたんだけど、最近そのお店に朝夕に軽薄なインチキ臭い男が毎日来るんだって。怖いわよね」

小鳥遊がワインを吹き出しそうになる。
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