ジキルとハイドな彼
真夜中

ふと人の話し声で目が覚める。

しかし、飲み過ぎたのか意識が朦朧として夢か現実かよくわからない。

耳の中に水が入り込んだように音がこもって聞こえる。

心地よい温もりに包まれて、瞼を開くのも億劫なほど。

寧ろずうっとこうしていたい。

夢現で私は微睡む。

「しっかし、よく懐いていますね。膝枕で眠りこけるとは」

小鳥遊は半ば飽きれた口調で言う。

「葛城さんの前でここまで…自然体?でいられる女性って初めてみました」」

そうだね、確かに新鮮だ、と言ってさらりとコウが私の髪に指を絡ませた。

「なんか、こうして見てると、兄と妹…じゃなくて、父と娘…とも違うな…姉と妹って感じっすね」

うん、そうそう、と頷き小鳥遊は自らの言葉に納得する。

「なんか色っぽくないね、それ」コウは不満そうだ。

確かにコウはお姉さんみたい。

優しくて美しくて、親身になって悩み事も聞いてくれて、美味しいお茶も入れてくれる。

そして何よりいいにおい。

「確かに美人ですけど、あまり情をかけない方がいいんじゃないですか?面倒な事になりますよ」

「小鳥遊も薫につられて頭にお花がさいちゃった?」

…前言撤回。我が耳を思わず疑う。物言いは柔らかだが、言ってる事は相当辛辣だ。

「すみません。出過ぎたことでした」

「うん。公私混同以前の問題だね」コウは冷たく言い放つ。

言葉とは裏腹に私の髪を撫でるその手は不気味なくらい優しい。
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