ジキルとハイドな彼
結構邪悪な彼
コウに不吉な予言を告げられてから数週間。

これと言った出来事もなく、日常を過ごしている。

時折早めに仕事が終わった日は、帰りしなに骨董品店を覗いて見るが石像のように動かない老人が店の奥にちょこんと座っているだけだった。

きっとその老人がコウのおじいちゃんで体調が回復して復帰したのだろう。

聡はあれからタイへの準備に向け、精力的に活動しているようで、夕飯を一緒に食べに行くのもままならない程の忙しさだ。

…要するに、放って置かれている。

コウにも色々相談したいけど、あんな事を言われた後だと、余程重要な事でもない限りこちらから連絡しずらい。

かと言って、友里恵や珠希に相談すれば「そら、見たことか」と言われ、どや顔されるに違いない。

私は肩で大きく溜息をついた。

こんな事で悩んでいるくらいだもの、きっと平和に違いないのよね。

トラブルなんて彼の杞憂だわ。

コーヒーを一口飲み、気を取り直してパソコンの画面に向かう。

デスクに置かれたカレンダーをふと見ると今日は13日の金曜日だった。

「おーきーもーとー」

向かいのデスクに座る先輩社員の下関真由美がパソコンの間からにゅっと顔を突き出した。

「下関さん…何ですか」

急にデカイ顔が視界に入り思わずギョッとしてしまった。

「あんたさーゆうこりんの披露宴出席したらしいじゃん」

アラフォー女子の下関さんは三度の飯よりゴシップが大好きだ。

この人に秘密が漏れると翌日には会社の入口に立っているガードマンまでその噂は回っているだろう。

言うまでもなく独身だ。
< 54 / 302 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop