ジキルとハイドな彼
「ふざけたことぬかしてんじゃねえよ!ねえちゃん!」

田所は前に顔を突き出して私の顔をぶしつけに覗きこむ。

こ、怖い… 。間近で見るとつくづく迫力のある顔だ。

「いいか、あのトランクにはな、合成麻薬5Kgが入っていたんだよ」

「5Kg…ですか。どうりで重いと思ったわ」

あまりの衝撃的な回答に頭が真っ白になりしトンチンカンな事を口走る。

「ああ?!ふざけてんのか?不法所持で刑務所ぶち込んでやろうか?」

「合法麻薬って何ですか?マリファナみたいなものですか?それでいて何色?何でそれがあのアタッシュケースに入っていたんですか?私はどこかでアタッシュケースを取り違えたのかしら?」

パニックになった私は矢継ぎ早に質問をまくしたてる。

「だーかーらー、それを俺が聞いてるんだよ」

田所は細い眉毛を一層吊りあげて、なぶりつけるよう私に詰め寄る。

「合法麻薬が入っているなんて全く知りませんでした」

自身の名誉のためにも、田所の迫力に押されぬようきっぱりとした口調で反論するが「合法じゃねえよ、合成だよ。合法の麻薬なんてある訳ねえだろ」と即座に田所に突っ込まれる。

「合成だか合法だかわかりませんけど、そんな物騒なものなんて知りません!」

私は強い口調で断固否定する。

「じゃあ、どうして逃げたぁ!?」

田所が机を叩きつけたので、またもや私はビクリとする。
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