ジキルとハイドな彼
「アタッシュケースに入った書類を今日中に届けないと、彼の会社が倒産して首を吊るって言われたんです!」

私は聡が部屋に来てから届けるまでの経緯 について順を追って説明する。

「田所さん達がその追手だと勘違いして逃げました。まさかこんな怖い顔した柄の悪い人が警察だなんて善良な一般市民の私は思いもよりませんでしたし」

私はコウを見習いシレっとした態度で答える。

コウもシレっと私達のやりとりを眺めている。

「本当に男に頼まれて所持してたのか?自分の小遣い稼ぎでもしてたんじゃねえか」

「そう思うんだったら徹底的に調べてみればいいじゃない!潔白だったあかつきには覚えてなさいよ!この丹下段平があ!」

立ち上がろうとすると再び雑種犬状態になる。

なんたる屈辱。

手錠を掛けられて拘束された上にあらぬ疑いをかけられるとは…。

顔を真っ赤にして田所を睨みつけた。

コウはその隣で眉根を寄せ唇をかみしめながら渋い顔をしている。

丹下段平が堪えたのか田所はコホンと一つ咳払いをする。

「あのアタッシュケースがねえちゃんのものじゃなかったとすると一体どいつのものなんだ?」

田所の追求に私は俯き黙秘を決め込む。

聡… 合成麻薬ってどういう事?私に嘘をついていたの?

信じられない恐ろしい事実を突き付けられてクラクラと目眩がする。

「沖本さん、アタッシュケースに入っていた合成麻薬とは具体的にどういう代物がご存じですか?」

コウは抑揚のない話し方で私に尋ねる。

「しつこいわね。知らないっていってるでしょ!」

苛立ちから私は声を張る。
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