ジキルとハイドな彼
「いつも冷静に高いところから見下されて、葛城さんと付き合ったら寂しい想いをするんでしょうね」

思わず負惜しみが口をついて出る。

コウは瞬間冷凍されそうなほど冷ややかな視線を私に向ける。

私は氷ったように固まった。

「沖本さん、あなたにアタッシュケースを託した彼、とは一体誰のことですか?」

コウがズバリ切り込んできた。

私は口を結び下を向く。

ここで聡の名前を私が出せば私の容疑は晴れるだろう。

でも、だめだ… 言えない。

騙されいたとしても、いや、私は騙されていたとわかっても、ここで聡の名前をどうしても口にする事が出来ない。

目を固く瞑って、項垂れる。

「沖本さん」コウが緊迫した沈黙を破る。

「今となってはおかしいと感じているのでしょう。やはり彼の行動には不信な点があったということですね」

図星を突かれて、私は何も言い返すことは出来ない。

「あなたの思慮のない軽率な行動によって、多くの人の人生を狂わせていたかもしれないんですよ?無関係な人々が被害に遭っているのを知っても同じ事を言えますか?」

コウは極めて冷静な口調で淡々と私を追いやって行く。
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