ジキルとハイドな彼
「何か食べられそう?」

私は首を横に振ると、ミネラルウォーターを手に取り一気に飲む。

「でも何か少しでも口に入れないと薬も飲めないだろ。アイスクリームとか?」

「冷たいわ」

「じゃあ、お粥?」

「フルーツがいい」

私がボソっと呟くと、我が儘だな、と言ってコウは眉を顰める。

「ああ!いや!別にお粥でもアイスでも全然大丈夫です」

「じゃあ、フルーツ買ってくるからちょっと待ってて」そう言い残し、部屋から出て行った。

何だかんだ言って面倒見はいいらしい。

コウが部屋から出て行ったのを見計らって、今度は立ちくらみしないようにベッドからゆっくりと抜け出した。

整然とした寝室ををぐるりと見渡して自分の鞄を探したが見当たらなかったので、失礼ながらもそっとクローゼットの扉を開く。

中は広々としたウォークインクローゼットになっており仕立てのよいスーツがズラリと並んでいる。

ハンガーは全て統一されていて、クリーニング屋でもらったものなんて一つとして紛れこんではいない。

スーツと私服はきっちり分けられて、それぞれ色のグラデーションごとにかかっている。

まるで、センスのよいセレクトショップにでも来たみたいだ。

これだけ整ってると逆に引くわね。

その片隅にひっそりと置いてあったロンシャンのミニトートを発見する。

私は駆け寄ると中からスマートフォンを取り出し画面をタップする。

着信履歴を見ると全て聡で埋まっていた。

丁度、警察に拘束されていた時間帯だ。
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