ジキルとハイドな彼
慌てて聡に折り返し連絡する。

しかし何度か呼び出した後に留守番電話に接続されてしまう。

私は家出した娘を探そうと躍起になっている母親のごとく何度も何度も電話を掛ける。

けれども聡が電話に出ることはなかった。

聡…貴方は今何処にいるの?無事なの?

昨日からの出来事が頭をぐるぐる回るが、熱でボンヤリしてうまく思考がまとまらない。

ただただ、聡との過ごした記憶が想い浮かんでくる。

待ち合わせに遅れて慌てて掛けよってきた姿。

ダイヤのネックレスをくれた時は嬉しかったな。

最後に聡と交わしたキスを思い出すと堰を切ったように涙が溢れた。

…でも全て嘘だった。

心臓をギュッと握られているかのように苦しい。

私の口から嗚咽が漏れた。

子供の頃は、泣けば両親が大抵の事はどうにかしてくれた。

だけど、大人になった今、いくら泣いても誰もどうにもしてくれない。

仕方ない、そう思ってただ傷が癒えるのをじっと堪えて待つしかない。

いつになったら、この傷は癒えるのだろう。

途方もない時間を思うとやるせなくなり、また涙が溢れる。

おまけに警察の取調べは傷口に塩をグリグリと擦り込むようなもんだ。

知り得なかった残酷な現実を目の前に突き付けられる。

だけど、あの時捕まって本当によかった。

そのおかげで関係のない人達の人生を狂わせないで済んだのだから。

聡…あなたは一体何者だったの?

あんな恐ろしい事件に関わるような犯罪者だったの?
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