ジキルとハイドな彼
「何してるの?」

不意に声を掛けられて慌てて振り向くとコウが買い物袋を下げてクローゼットの戸口に立っていた。

私の顔を見ると不機嫌な猫みたいにスッと目を細める。

スマホを握り締めクローゼットの中に座り込んでいる私を不審に思ったのだろう。

「バック…探してた」

コウの漆黒の瞳に見つめられると全てを見透かされたような気分になり、私は慌てて視線を逸らす。

スマートフォンを後ろ手に隠し、手の甲で涙をさり気なく拭った。

「それで電話は繋がった?富永に」

コウは唇の端を上げて冷やかな笑みを浮かべた。

鬼刑事…再来…。

「繋がる訳ないよな。薫は迂闊にも荷物を運ぶのに失敗した役立たず、だ。お払い箱だね」

コウは私の隣に屈み込む。

「さ、聡だって事情があったかもれないじゃない」

私はコウを睨みつけて負けじと言い返したものの、失笑されてしまう。

「薫はまだ信じてるんだ、富永のこと」

顔がカアッと熱くなる。

信じてる訳じゃ、ない。

自分がまた騙された事実を認めたくないだけだ。

だけどそれを言ったら既にボロボロに傷付いた自尊心が、木っ端微塵に砕けそうなので私は黙ったまま俯く。

「本当、馬鹿が付くほどお人好しだね」

私は何も言い返せずに奥歯をギュッと噛みしめる。

「それに富永に騙されてたのは薫だけじゃないみたいだよ?知ってた?」

コウはクスリと笑ってこちらのリアクションを伺うように私の目を覗きこむ。

「どうゆう事?」

私は訝しげな視線を向けて聞き返す。
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