ジキルとハイドな彼
「まだ調査段階だからハッキリしたことは言えないけど、薫の他にも付き合っている女性が何人かいて、同じように運び屋として仕立て上げてたようだ。お得意の色仕掛けでね」

「嘘よ…」

私は驚愕の事実に驚いて目を見開く。

よくあることだ、と言ってコウは肩を竦めて立ちあがる。

「ラブ・コネクション、っていうんだ。そうゆう手口」

らぶこねくしょん…なんだか如何わしい響き…。

私はクラリと目眩がした。

またしても突きつけられた残酷な真実を受け止めることを脳が拒否しているのかもしれない。

「まぁ、一線を越えることなく利用されてたお人好しは薫だけかもしれないけどね」

コウはおかしそうにクスクス笑う。

この美しい人はどうしてこんなにも残酷なんだろう。

一瞬でも本当は優しい人なのかもしれないと思い直した私はやっぱりお人好しで大馬鹿ものだ。

両目から一気に涙が溢れて床にボタボタと落ちる。

コウが床に置いた買い物袋を手にとって、私は投げつけた。

不意をついたのか、見事コウの腕にブツかってメロンが床にゴロンと転がった。

「何すんだよ?!」

コウは目を三角にして怒っている。いい気味だ。

「あんたなんて大っきらい!」

小学生ばりの貧困なボキャブラリーで悪態をつきながらロンシャンのバックを掴んで立ちあがる。

興奮して熱が更に上がったのかフラフラ目眩がするが、なんとか気力で持ちこたえようとする。

「おい、待てよ」

コウはムキになって私の腕を掴む。

「もう帰る!離して!」

ブンブンの振り払おうとするが、腕を掴むその手は力強くて振り払うことが出来ない。
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