ジキルとハイドな彼
頭に血が上り過ぎたのか、熱のせいか、恐らく両方の理由で私は再び目眩に襲われる。

膝から倒れ込みそうになるが、コウが腕を掴んだまま私の身体を受け止める。

必然的に抱き合うような形になってしまった。

「熱があるんだから大人しくしろよ」

「誰のせいだと思ってるのよ…」

腕を振り払おうとしても力が入らない。不可抗力でコウの胸にもたれかかる。

仄かに香るエゴイストプラチナムの香りに包まれた。

「ごめん、言い過ぎた」コウは私を抱きしめたままボソリと呟く。

一見細身に見えるが、意外にも引き締まっていて逞しいコウの身体に密着すると不本意ながらドキドキしてしまう。

大っきらいなハズなのに。

これは、生物的本能である、と自分に言い聞かせなんとか冷静さを保とうとする。

「は、離してよ」

「また倒れるから駄目」

コウは抱き寄せる腕に力を込める。

熱でボウっとしているので服越しに伝わってくる人肌の温もりが心地よくなってきた。

私は抵抗する体力も気力も消耗し、観念したように寄りかかった胸に顔を埋める。

「最初からこうやって大人しくしてれば可愛いのに」コウは耳元で囁いた。

暴走する王蟲を虫笛で鎮めるナウシカのごとく、コウは優しい手つきで頭を撫でて私を宥めていく。

大人しくなったのを見計らい、コウはヒョイッと私を横抱きにする。

俗に言うお姫様抱っこってやつだ。

健康時なら騒ぎ立てていたかもしれないけど、熱に侵された今はグッタリとしてされるがままである。

まさにまな板の上の鯉状態。
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