ジキルとハイドな彼
コウはそのままベッドまで私を運んで寝かし付けてくれた。

「さっき投げつけてきたフルーツ食べる?」

コウは悪戯っぽく唇の片端を上げてニヤリと笑う。

「中身なんだっけ?」

「マスクメロン。結構高かったなあ」

マスクメロンという単語に身体がピクリと反応する。因みにメロンは私の大好物だ。

「でも投げつけるようじゃいらないかなぁ」

「い、いるわよ!意地悪ね!」

焦る様子の私を見てコウはおかしそうにクスクス笑う。

久しぶりに笑顔を見て何だかホッとする。

「あなたも普通に笑うんだ」

思わずマジマジと見つめてしまう。

「あまりないからレアだよ」コウは片眉を上げる。

「じゃあ、私の身辺を調べていた時は、随分安売りしてたのね」

「それも仕事だから」

「じゃあ、看病も仕事のうち?」

「まあね、警察に過酷な取調べを強いられて倒れた… なんて騒がれたら、また不祥事で叩かれるでしょ」

コウは鼻の頭に皺を寄せて嫌そうに言う。

「随分仕事熱心なのね」私は目をぐるりと回し、肩を竦めた。

「じゃ、メロンを切ってくるからちょっと待ってて」

スッカリ涙が引っ込んだ私は目を輝かせて大きく首を縦に振る。
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