さよならだね。
「そんな、、」
優華が隣で口元を抑え、あたしの代わりに涙してくれている。
あたしは、涙が流れなかった。
びっくりして、怖くて、震えが止まらない。
優華が隣でぎゅっと支えてくれてなかったら、うまく立てていたかさえわからない。
全身の力が抜けていく感じがして、頭が真っ白になる。
「どうにか、記憶が戻るように、俺たちに出来ることはないんですか?」
原口さんの握っている拳が震えていた。
「あまり無理に思い出させようとするのも、本人に負担がかかる場合がありますし。ただ、何か思い出の場所に行ったり、アルバムなどを見せたり、無理のない程度になら。」
「わかりました。」
先生と看護師さんが出て行った。
誰も言葉を発せずにいた。
「ごめんな。」
愁くんがぽつりとつぶやく。
「俺が覚えてないせいで、みんなに辛い思いさせてんな。」
「何言ってんだよ。愁は、悪くねーよ。」
申し訳なさそうに、愁くんが顔を歪める。
そんな愁くんの顔を見て、あたしはやっと涙が流れた。