さよならだね。
縮まらない距離
愁くんの記憶が消えたとわかったあの日。
部屋で泣きじゃくったあの日。
愁くんの記憶が戻るまで、
愁くんがまた好きになってくれるまで、
あたしは、もう泣かないって決めた。
次の日、あたしは1人で愁くんに会いに行った。
ドアをノックする手が、緊張で震える。
愁くんの返事が聞こえ、あたしは深呼吸してドアを開けた。
「失礼します。」
病室に入ると、愁くんは座って窓の外を眺めていた。
「あ、、ゆらちゃん、だよね?」
「はい。」
「こっち、座りなよ。」
突っ立ったままのあたしに、愁くんはベッドの脇のイスに座るよう言った。
あたしは言われるがまま、イスに腰掛ける。
いざ愁くんを前にすると、何を話せばいいかわからなくなる。
だって、いまの愁くんからしたら、あたしは知らない女の子。
どう接すればいいのか、、。
先に口を開いたのは、愁くんだった。
「昨日は、なんかごめんね?俺の記憶が無くなったせいでしょ?ゆらちゃん、泣いてたみたいだから。」
「いえ、あたしは何ともないですから。そんな謝らないでください。」
不思議と、かしこまって敬語になってしまうあたし。
「俺、あのあと必死に考えてたんだけど、全然思い出せなくて。もしかしてなんだけど、ゆらちゃんは俺の、、」
愁くんが言いかけた言葉を、慌ててさえぎる。
「ただの知り合いです!原口さんを通じて知り合って、最近仲良くしてたから。」
「でも、ただの知り合いを、こんな時にわざわざ海斗が連れてくる?それに、海斗、何か言いかけてたし。」