さよならだね。



一瞬そんな顔になって、そのあとすぐにまた笑うんだ。


見逃してしまうほど、一瞬だけ。



だから最初は、俺の気のせいかとも思った。



でも、気のせいじゃない。




ゆらをずっと見てるからわかる。



ゆらは確かに、悲しい、寂しい目をしてる。



ゆらは自分でも気づいてないのかもしれない。



でも、俺にはわかるんだ。





やっぱりゆらは、少し無理してたんだろうな。



きっと本当は、俺なんかよりもずっと、俺の記憶がなくなったことを悲しんでる。


本当は、早く記憶が戻って欲しいと、願っているんだ。


なのに、俺のために、そんな気持ちを隠して笑ってくれてる。



ゆらは、優しい子だから。




俺は、ゆらのためにも、早く記憶を取り戻したかった。



でも、どんなに頑張っても戻らない記憶。


焦りだけがつのっていった。


思い出せない自分に腹が立った。



ずっと、その繰り返しだった。




ゆら、俺はどうすれば、ゆらの苦しみを消してやれるんだろう。


どうすれば、その悲しみを溶かしてやれるんだろう。



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