さよならだね。



あたし、いま話してる。


愁くんと、普通に話せてる。



ずっと会いたかった愁くんが、いま目の前にいる。


握った手から、愁くんの温もりが伝わってくる。



そんなことが嬉しくなる。





「ずっと会いたかった。でも、あたしといることで、愁くんが辛いならって思って、ずっと我慢してた。」


「ごめんな。」


「ううん。本当はね、それだけじゃなかった。いつまで待っても、愁くんから連絡もなくて、もしかしたら愁くんは、もうあたしのこと忘れちゃったのかなって怖かった。だから、会いに来る勇気がなかったの。」




愁くんのため。


なんて、そんなの言い訳だった。



会いに行って、自分が傷つくのが怖かった。


逃げてたんだ。


向き合う勇気がない、弱虫だったんだ。





「でも、優華や美奈に言われたの。好きなら一緒にいるべきだって。付き合ってれば、辛いことや苦しいこともあるけど、でもその傷を癒せるのも、その人だけなんだよって。」


「そっか。」


「うん。それで気付いたの。確かに愁くんの言う通り、記憶を失くしてしまった愁くんといて、寂しいって感じるときもあった。でも、その寂しさを埋められるのは、愁くんだけなの。」


「ゆら、、」



また、愁くんの目に、涙がにじむ。



今日の愁くんは、泣き虫さんだね。



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