私だって泣きたいこともある
別にサチが悪いわけじゃない。
さっきだって
ぶつかったのは廊下の曲がり角だった。
角の向こう側は見えなくても、
聞こえてくる楽しそうな笑い声で、珠洲には女の子が歩いてくるのはわかっていたはずだった。
少なくとも珠洲の後ろを歩いていた私には、それがわかった。
珠洲は虫の居所が悪かったのだろう、
ぶつかるように、わざと唐突に前に出たのだ。
「真ん中を歩くからよ」
取り巻きの1人が嘲笑うようにそう言った。
珠洲の取り巻きには”A”しかいない。
彼女たちに言わせれば、廊下の中央を歩いていいのは”A”だけで
なぜなら”ハカセ”も”ノーマル”も、
所詮は”A”に寄生するダニのようなものだからという。
「信じられない
落ちたものを そのままケースに戻すの?
汚れてしまったのに?」
「あ!
…す すいません」
サチはほとんど泣きそうな顔をしながら
慌ててハンカチを取り出して、ペンを拭き始めた。