私だって泣きたいこともある
「どうしました? 綾野さん
あなたは、もっと冷静な子だと思っていましたが」
「今日はそういう気分だったんです」
生徒会長は眼鏡の奥の目を細めて
困ったようにクスッと笑う。
長い睫毛が美しい瞳を隠すこの微笑みは
この学園に広がる美しい庭園と同じくらい、私のお気に入りでもあるけれど
今の私にはその瞳さえ、もの悲しく無意味なものに見えた…。
生徒会長は当代きっての天才と言われている。
飛び級でいくらでも有名大学に行けるところを
噂では学園に懇願されてここにいるらしい。
本人が言うには、限界集落の小さな農家出身ということだが
いずれにしろ生徒会長は”ハカセ”の中心的存在で、
グループ”A”からも教員からも一目置かれた存在であることに違いはない。
「君には西園寺洸や氷室仁といった頼もしい友人がいますから
心配いらないとは思いますが」
「2人は関係ありません」
2人の名前を出されて
私はチクリと胸の奥が痛んだ。
―― 生徒会長
私は彼らの友達だからこそ
すがったりはできないのよ