冷血ラブリズム~続編、5日更新~
「…哀川ー。哀川 弥月は来てないのか?」
理科室で先生が弥月の名前を呼ぶ。
あれ…。弥月、いつもならちょっと遅れて入って来るのに、今日はそれすらない。
もう授業が始まって、30分もたってるのに…。
なにかあったの…?
心がざわざわして落ち着かなくなって、あたしは椅子に座ったままスカートのプリーツを握りしめた。
「…哀川くん、何してるんだろうね」
あたしの横でシャープペンシルをカチカチと言わせて、芯を出している佳代。
「……なにしてるんだろうね」
教室を出ていったときは、何も持ってなかった。
その後教室にすら戻ってないって事?
どこかで倒れてるとかないよね?
だんだん心配になっておろおろとするあたしをよそに、ガラリと音を立てて理科室のドアが開けられた。
「おお、哀川。遅刻だぞ」
少し安心したみたいに、声をかける先生をチラリと見ると弥月は一言。
「……すみません」
そう言って自分の席に着いたんだ。
「…なーんだ。また遅刻か」
安心したような、呆れたような声を出した佳代は黒板へと目を移した。
そんな中、あたしは弥月の背中から目が離せなかった。
いつの間にか長くなってしまった、女の子みたいなサラサラの栗色の髪の毛も。
チラリとしかあたしの事を映してくれない、その奥二重の目も。
細くてスッと長いきれいな指先、背筋のピンと伸びた堂々とした後ろ姿も…。
そのうちあたしの前から消えてしまうのでしょう?
弥月の興味が失せてしまったら…あたしは用済みって事なんだよね。
「…桜花……?」
小さく、弥月に呼ばれた気がした。
ふと意識を戻すと、あたしよりずっと前に座ってる弥月が少しだけあたしの方を見ていたんだ。