夜を駆ける
 力なんていらない。あんな獣と関わりあいたくなどないのだから。意外にもあっさり解放されたことに安堵する。

 握りしめていた手のひらは、汗ばんでいて冷たく不快だったので、服の裾でぬぐった。寿命をごっそり削られるような緊張感はすぐに消え去ることがなく、まだ体が震えていた。

 松茸の大きさや数を競う声が、あたしを現実に連れ戻してくれる。何気なく子供達に目をとめて息が止まりそうになる。


 集まり騒ぐ子供の輪にスンホンはいない。

 全身の毛穴が開き、毛が逆立つような不安が襲ってきた。

 せわしなく見渡してみるものの、視界に入らない。頭ではガンガン警鐘が鳴り響き、喉はかわいていた。

「ハン!!スンホンはどこ」

 がさがさと下草を掻き分け、木の裏を探す。慌てたあたしに気づいて、ハンもスンホンを探しはじめた。

「さっきはいたんだ。三人組にして…松茸を探していたんだから」

 一緒にいた子供に聞いてみたものの、松茸を探すのに夢中でスンホンがいつ離れたのかわからなかった。

 山の斜面には滑り落ちたような形跡もない。散り敷いた落ち葉があって、足跡をたどることも出来ない。

 あの獣のことが頭をよぎるものの、何者かもわからない者のことなどハンに説明できるはずもなかった。

 スンホンが連れさられたかもしれないという可能性はやはりあるのだ。
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