夜を駆ける
スンホンとの距離は縮むことがない。こっちが駆け寄っても、すいすいと歩いているスンホンとの間は変わらない。
喉がカラカラに渇いていた。
おかしい
おかしい
頭が警鐘を鳴らしている。スンホンはあたしが付いていくのか、振り返ってこちらを見ている。
「みんな心配してるのよ、何か言ったらどうなの。今だってハンや村の男の人が総出で山に捜索に出てるんだから」
ドキンと胸が大きく打つ。
村の人みんなの捜索をかい潜って、よく見つからないでここまで来れたものだ。
時間にしても、遅く暗い。
明かりなど持たないのにスンホンは、ぼんやりと光って見える。
「何か言ったらどうなのよ…口がきけないの」
頭痛がしてくるくらい、頭の中の警鐘は大きくなる。
「まだだよ…付いて来てよ。お姉ちゃん」
もうすぐ村外れに差し掛かっていた。耕された畑を抜けたら、また林になる。
ふと背後からの視線を感じて見れば、黒い獣が付いて来ていた。この獣に背中を向けていたのかと思うとぞっとする。
よくこの獣に襲われなかったものだ。
『境界から出るな』
境界…そんな物なんて、何処にあるというんだろう。
「何、言ってるの」
『人の世界と、自然との境界だ』
ちらりとスンホンを伺う。
『奴は理から外れた者だ』