夜を駆ける

 スンホンとの距離は縮むことがない。こっちが駆け寄っても、すいすいと歩いているスンホンとの間は変わらない。

 喉がカラカラに渇いていた。



 おかしい




 おかしい




 頭が警鐘を鳴らしている。スンホンはあたしが付いていくのか、振り返ってこちらを見ている。

「みんな心配してるのよ、何か言ったらどうなの。今だってハンや村の男の人が総出で山に捜索に出てるんだから」


 ドキンと胸が大きく打つ。

 村の人みんなの捜索をかい潜って、よく見つからないでここまで来れたものだ。

 時間にしても、遅く暗い。

 明かりなど持たないのにスンホンは、ぼんやりと光って見える。



「何か言ったらどうなのよ…口がきけないの」



 頭痛がしてくるくらい、頭の中の警鐘は大きくなる。


「まだだよ…付いて来てよ。お姉ちゃん」


 もうすぐ村外れに差し掛かっていた。耕された畑を抜けたら、また林になる。

 ふと背後からの視線を感じて見れば、黒い獣が付いて来ていた。この獣に背中を向けていたのかと思うとぞっとする。


 よくこの獣に襲われなかったものだ。



『境界から出るな』

 境界…そんな物なんて、何処にあるというんだろう。

「何、言ってるの」

『人の世界と、自然との境界だ』


 ちらりとスンホンを伺う。

『奴は理から外れた者だ』


< 16 / 53 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop