夜を駆ける
きっと誰かが見たら滑稽な場面になるはずだ。
近づいてくる虎と、動けずにいる人間。
自分の運命を決めるのは、この虎かもしれない。機嫌ひとつ、腹具合ひとつで、簡単に人生が終わる。
「もう、いいんだよね。これで僕は自由なんだよね」
ちらちらとスンホンが虎をうかがいながら聞く。無理に笑おうとして、しわくちゃに顔が引きつっている。
ひたっと足音が止まり、ぐるりと虎がスンホンを向いた。
『オマエ、ツカウ』
「言うことを聞いたら…変わりを見つけたら帰してくれるんでしょう」
かたかたとスンホンが震えている。
『オマエ、オレノ。スキニスル』
「そんな…家に帰して。母さんが寝てて世話しないといけないし、弟達にご飯をやらないと…」
今にも泣きそうな顔をして、スンホンが叫んでも、虎は投げつけられた言葉を払うようにぶるりと体を震わせた。
『オレ ツヨイ ヲマエ イウコトキク 』