夜を駆ける
ビュッと枝が風を切る。握った枝は、せいぜい腰までの丈しかない。
短いけれど、それだけ腕が伸びたと思えばいい。
両手で枝を持ち、しならせてみる。枝は乾燥し始めた乾いた音をたてる。
少しでも、倒す確率を上げておきたい。
『オマエ ヨワイ』
ぶるりと虎は体を揺らした。もしかしたら、笑っているのかもしれない。
「弱いかもしれない。でもあたしは、あたしだ」
枝を握った腕を前に伸ばす。
「お前の言いなりになるつもりはないよ」
今度はこちらから間合いを詰めるために、走り寄る。
ギャオォォン
咆哮で虎が迎えうつ。威嚇だとしても、怯まないように奥歯を噛み締める。
あたしは、負けられないのだから。
眉間を狙いながら、繰り出した枝が、前足のひとふりで払われそうになる。
とっさに、枝の角度を変えて、指と指の間を狙う。狙いは外れることなく、肉球を滑り、指と指をつなぐ薄い膜に深く刺さった。
刺さったのを確認して、虎から退く。
ギャオォォウ
あまりの痛さに、虎は叫びながら、前足を狂ったように振りまわす。
「どうやら指先に神経が集中してるのは人も獣も変わらないみたいね。
あたしは力がないから、そちらの力を利用させてもらったよ。
上手く刺さるか心配だったんだけど…思いきりやってくれたね」