夜を駆ける

 グルグルと虎は喉の奥で苛立ちをあらわしていた。

 枝の先をくわえて抜こうとしているけれど、頑として抜けることはなく、いらいらが募るばかりだった。



「残念だけど、抜けないように、枝に割れ目を入れて返しを作ってあるから」

『イヤナヤツ  イヤナヤツ』


「ひとつづつ奪っていくしかないでしょ、あたし力ないし」


『ニンゲン ソウダ  オレタチミエナイ』

 ふっと虎の声が沈む。怒りだけでないものが、そこにある。

「いるじゃない、ここに」

『ニンゲン  ジブンシカ  ミエナイ』


「そんなはずない」

『ニンゲン  コドモ  コロシタ  タベナクテモ コロス』


 虎はじっとこっちを見ている。怒りだけではないもの…

「……どうして、あたしにそんなこと言うのよ」

『オマエ  ツヨイカ  オレヲコロスカ』

「あたしがどんな思いでここに来たのか知らないで…
勝手にスンホンを使ったくせに、自分だって被害者だなんて

……あたしもスンホンもあんたに関わりたくなんかなかったよ

知りたくなんか……

なかったよ」



 事の始まりは人間からだなんて。

『コロス クラウ イキテルカラ スル

ニンゲン コロス ステル

シヌイミナイ』



「みんながそうじゃない。人間だって…」

 何をする?子供の虎を動物園に売りさばくのか、剥製でも作るのか。

 たまたま、殺してしまったのだろうか。皮を剥ぐなら親を狙うだろうし、売るなら生け捕りだろう。

 親の怒りは根深い。関係ない他の人間まで手をかけるつもりなら

もう

この虎は

人喰い虎なんだ。


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