夜を駆ける
 どれだけぼんやりと放心していたのかわからない。お節介な黒い獣も何も言うことはなく、ただあたし達は虎の体から体温が失われていくのを見ているだけだった。 

 しゅるっと風が体を巻いた。

 涙でぼやけた目にも、明るい光の球が見える。くるくると球はあたしのまわりを回わって、ぴたりと正面で止まった。



「…覚えておくから。その色も、大きさも」



 うなずくように、光の球はその場所で弾み、勢いがついたのか、ぽーんと跳ねあがった。

 きらきらと笑うように、かすかに震えながら光は空を目指して上っていった。


 許される罪ではないのかもしれない。でもだからこそ、また会える気がした。





 この体は埋めてやらなければいけない。けれど重量にしたら二百キロはある体を、あたしが担いでいける訳がない。思案していたら、がさがさと薮が揺れた。

 びくりとして振り向くと、熊だった。しかも一匹じゃない…人食い虎の死体を食べさせる訳にはいかない。
 あたしの体で、かばいきれるだろうか。じっとりと汗が浮く。



『人目につかない場所まで運んでくれ』



 黒い獣があたしと熊の間に割って入ってきた。低い声で熊も答える。

 三匹の熊が虎を運びはじめてから、黒い獣に対して疑問が浮かんだ。

「あんたは、何なの」

『獣の王とでも思ってたらいい。説明めんどくさい』


 そして獣の葬列に加わった。あたしも慌てて後について行くことにした。

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