夜を駆ける
この女の人には、本当に足があるのか、あたしは確認していた。
それだけ『人間』という生き物とは掛け離れて、自由な魂を持っているようだった。
肉体という器から魂がはみ出しそうなくらい、輝いた魂をその内に抱えているようだった。
一本の古木のように地面に根を張り、空に向かって枝を伸ばしているようで、そばに来ただけで森に包まれるようだった。
「シュウメイ、お客人にご挨拶なさい」
父に促されるまで、睨みつけるほど見つめていた。
あたしの不躾な視線など意に介さないのか、女の人からは不快な感情を伺えなかった。
「初めまして。シュウメイと申します。我が家にお越しいただき、光栄です」
お辞儀をして顔を上げると女の人の視線があたしに合わせられ、ゆるぎなく注がれていた。
目には見えない何か。
この女の人はあたしに嵐をもたらす先触れのようだ。