夜を駆ける
席を立った彼女を見て、慌てて声をかけてしまう。
「また、会えますか」
いきなり会ったばかりの客人に聞くことではない、そう思い至って顔に朱がのぼる。
『「もちろん、ワタシが生きていたら、また会えるワ」』
『斑、すぐに呼び出されても困る』
黒い獣は眉間にしわを寄せている。
「じゃあ、また会えるんですね」
たくさん助けてもらったのに、黒い獣のことは何も知らない。黒い獣が斑と呼んだこの人も。
『「満月の夜に遊びにオイデ。迎えを寄越すカラ」』
確認を取るために父を見ると、頷いていたので安心する。なんのために、この二人はここに来たのだろう。
一番大きな疑問が残っている。
明るい月の下、遠ざかる二人を見送りながら、どこから来たのか疑問がわく。
玄関まで父と見送りに出て、質問を浴びせようと考えていたのに、体は休息を求めていて、頭がぼんやりしてきた。
起きたら聞こう。
安らげる自分の部屋で布団に包まれると、あっという間に眠りの波が押し寄せてきた。