夜を駆ける

目を閉じると虫の動きも、獣の動きも何らかの意思に基づく行動だとわかる。

風に破れた網を繕う蜘蛛や、食べ物を探す鹿が木の皮を剥いだりしている。

ああ、皮なんて食べて。まだ冬にならないのに。美味しい草にしたら。



ぴくりと鹿は耳をそばだて丸い目を向けた。

皮が好きなの。

そう聞こえた気がした。



ふふっと笑いが込み上げてきた。なんだか地面に根を張って大地と一体になった気がした。

大地の上で繰り広げられる生き物の営みが、自分の皮膚感覚のように感じられた。





視界の端に、するりと流れるような姿が目に入った。自然なその動きは無駄がなく、堂々としていた。

黒い獣だ。

『ローリングサンダー』



わかっていただろうに、頭をひとつ振り、こちらへとやって来た。

『お前がやったのか』

『何、言ってることが解んない』


面倒くさそうに、辺りを見回し根っこが広がってる、と言った。

『お前を中心に半径500メートルくらい支配下に置いてる』

『どういうこと』

『この辺りの森には、もうお前に逆らう者なんて居ないってことだ』

バリバリと後脚で首の後ろをかく。


『あいつが…斑が見て来てって言うまで信じられなかったけどな…』

ふと寂しそうな顔をする。獣の顔は人間と比べたら表情が少ないようだけれど、黒い獣は人間くさくて表情も豊富だった。

『…あたし何もしてない』
ぱたりとしっぽで地面を打ち、黒い獣はあたしを見た。


『意識を広げただろ。遠くの様子をすぐそこに感じたはずだ』

思いあたるのは、蜘蛛と鹿だった。そのように伝えると黒い獣は頭を振った。

『それだよ。無意識にやってんのか。あんまりやるなよ。お前には解らないかもしれないが、支配下に下った獣や昆虫にはストレスがかかる』


< 39 / 53 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop