夜を駆ける

川辺で寝そべり あたしは黒い獣の話を聞いた。

『俺の部族は文字を持たない。なんでかわかるか』

『秘密主義だから、残したくないんでしょ』

『それは違う。知識は財産だ自分が何をなすべきか、何をしてはいけないのか知る必要がある』

目からじりっとした熱を出しているようで、見つめられると痛いようだった。

『俺達は必要なことは物語として残している。語ることによってスピリットは再現される。必要なものは何百回何千と語り継がれていくんだ』

『同じ話を何回も聞くなんて、そんなのつまんない』

『なら聞いてみればいい。斑はストーリーテーラーだ。ただ同じ話を繰り返すだけじゃない。一回、一回細部が違うんだ。大人に語るのと子供に語るのとでも話が変わってくる。部族では語り継ぐ者と言うんだ。』


『斑さんが…』



彼女の声を思い出していた。彼女の部族の言葉を知らない あたしには 彼女の言葉は風のように聞こえる。優しくて力強い風に ほわんと意味がついてくる。小鳥のさえずりのようであり、鹿の鳴き声や、見たこともない美しい生き物の鳴き声のようだった。



彼女の存在自体が、奇跡のような調和を持っていた。


神様に愛され祝福された存在。彼女の中に全ての生き物がすっぽり入ってしまいそうだった。




『お前の親父さんを斑が後継者に選んだんだ。俺達がすることは、ずっと選ばれた者のそばにいることなんだ』


『そばに』

『お前の親父さんや、生い茂る木々や、虫達の小さな営み。獣達の群れ。日々生きている生き物達のそばに』



すっと視界が晴れた気がした。それなら あたしも出来るのかもしれない。

父が孤独にならないように そばにいるだけでも。





『なぜかは知らんが、俺達は長生きなんだ。きっとガイアに繋がり意思を聞くことで偉大な力を頂くのだろうよ。長い時間二人で生きていくんだ』





ローリングサンダーの話は身体が引き締まるようだった。あたしの父が、斑さんの後継ぎ

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