夜を駆ける
言わなくて 分かるわけはない。伝えたい人には、つっかえながらでも 考えながらでもいい伝えたい言葉を探す。
父にも
ローリングサンダーにも
スポテッドフォーンにも
わたしの中身を探して、手を伸ばしてつかみ取って差し出す。
立ち上がって、背筋を伸ばす。まだ慣れないけれど、これが今のあたし。
人間よりも力強い脚としなやかな筋肉を持った虎でしかない。
知恵も記憶も人のまま、脚力や跳躍力、腕力がついて人間にはない力がついた。
なぜなのか。きっと人間では成せないことも、虎なら出来るためだと思いたい。
『父に会いに行く』
人間だったなら、頬杖でもつきながら、くつろいだ様子で答えるのだろう。
『行ってこい。俺は必要か』
『いい。会いたいんだ』
父が何を考え、何を知っているのか、それが知りたい。
ふうっと息をひとつついて、ローリングサンダーは目を細めた。
『お前はまだ解っていないことがある。それが良く解るだろうよ』
『仕方ないよ。考えて考えて動けなくなるより、何かにぶつかって動けなくなるほうがいいじゃない』
手の平で小石を転がしてみる。掴むとかつまむという動作は無理にちかい。両手で押さえるというのが一番近い動きだ。
『動けないままじゃないだろ。
動けるんだ。ただどこに行くのか解らないだけだ』
『それは、みんなそう。解ってるほうが少ないよ』
『困ったら、俺の名前を呼べ。地上にいるなら、聞こえないことはない』
俺の名前と口にしたローリングサンダーの唇から、雷(いかづち)と言葉がこぼれ落ちる。それは楽器の音色のような音がして、名前に込められている本質を見た気がした。
斑
雷
『ありがとう』