夜を駆ける
『それじゃ、いくね』
うんうんとうなづくソウニャは、あたしの後についてくる。
あたしの家は村はずれで、すぐに畑を抜けて森になってしまう。
シュウメイはあたしの隣で、村の境界までついて来てくれた。
「シュウメイの故郷は、ここだから。これから、何処に行ったとしても、生まれ育ったのは、ここだから」
『…忘れない』
「あたしも」
前を向いて歩きだそうとしたあたしの耳に、藪や木の上からも声が降ってくる。
「シュウーメーイ」
「おねーちゃーん」
どこで知ったのか、ハンが村じゅうの子供を連れてそこにいた。
隠れていた子供達は声を限りに叫んでいる。
ハンは何度も何度もあたしの名前を呼んで、それ以外には何も言えないまま、掻きむしるように服の胸をつかんでいた。
声は涙混じりで喉を詰まらせ、口から洩れる言葉が意味もない嗚咽に変わっていく。
あたしも胸が詰まって言葉は声にならない。いつでも泣けそうなほど潤んでいた目からまた、涙がこぼれて消えていった。
あたしが虎にならなかったら、この村にずっといたならどうなっていただろう。
ハンや他の誰かと結婚したかもしれない。
「いいのか、シュウメイ」
別れを告げないことを父が聞いてくる。
『……声が出ないよ……』
あたしは手のかわりにしっぽを振った。ぶんとしなるようにしっぽが揺れる。
そして後は振り返らずに歩き出した。