夜を駆ける
強張った体を無理に動かして振り向くと、体の関節がぎしぎしと軋んだ。
ぽつりと闇に光る目があった。
下生えの笹に隠れた金色の目。何の生き物かはわからない。でも確実に、禍々しい気配をまとっていて背筋を恐怖が走り抜ける。
見ないほうがよかった。
これは魔性のものだ…獣ではない。目を合わせずに、背後から殺されたほうがいい。
あたしは、殺されるより辛いことをさせられる…
『お前、力はいるか』
声が体に響いてくる。喉の奥で声がつまり、なんとか頭を左右に振ることしかできない。
『お前はオレが必要になる』
がくがくと膝が笑い、噛み締めようとしている唇が震え、かちかちと歯があたる。
そんなこと有り得ない。普通に生活して魔物の力が必要になるなんて。
わーっと歓声があがって、緊張の糸が途切れる。
きゃっきゃっと松茸を見つけたことを喜んでいる。この魔物は、あたしが悲鳴をあげたなら、子供達を襲うだろうか。
じりじりとまた視線を上げると、笹の中にあった金色の目はもう消えていた。