王様とうさぎさん
倉庫の変人
「そこの女。
俺と結婚してくれないか」
幻聴を聞いた、と天野莉王(りお)は思った。
会社の渡り廊下を台車を押して歩いていたときだった。
振り向くと、何処かで見たようなイケメンが倉庫の戸を半分開け、中から手招きしている。
今の声とこの人は関係あるのだろうかな。
そんなことを思いながら、大真面目な顔をした彼の許に近づくと、いきなり中に引っ張り込まれた。
「いたたたっ。
なんなんですかっ」
手を離した背の高いその男は、ダンボールの詰まったスチール棚を背に腕を組んで言う。
「俺は、システム運用部の卯崎允(うさき まこと)だ。
初めまして」
狭い室内にその男の声はよく響いた。
「は、初めまして」
急に丁寧になったな、と思っていると、彼はまるで何かを読み上げるかのように言った。
「初めまして。
俺と結婚してくれないか」
初めましての次がそれはおかしいだろう、と思いながら、無駄に整っているその顔を見上げていると、彼はいきなり、
「名前は」
と言ってきた。
「は?」
「お前の名前だ」
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