キミがこの手を取ってくれるなら

「はい、どうぞ。」と目の前にカップが置かれた。カフェラテの中にはおなじみのハートの模様が描かれてある。

「だから、奈緒子ちゃんは愛に包まれてる、って言ったの。やっと分かった?」と陽介さんが優しく微笑んだ。


私は、ひとりじゃなかった。
そして…たぶん幼い頃からずっと…愛に包まれていたらしい。

「よく分かりました…」私はそう言ってカフェラテを口に運んだ。



昔、ここで話した『森のくまさん』の意味がようやく分かったような気がした。

もう、私はくまさんの気持ちが分からないお嬢さんじゃない。


『大切な落としものを届けてくれるんだもの。ずーっと追いかけてくれてね。』
あの時の志帆さんの言葉が聞こえたような気がした。


きっと、じゅんたが私がひとりじゃないって気づくきっかけをくれたんだ。過去に落としてきた大切なものを届けてくれるように…私に想いを伝えてくれた。


過去にこだわるのは、もうおしまいにしよう。

私はやっとこの不安な気持ちから抜け出す道が見えたような気がした。
 
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