キミがこの手を取ってくれるなら

2、秋と憂鬱


10月。
毎年、この季節は憂鬱になる。
高校2年生の秋、ひとりぼっちになってしまったあの出来事を嫌でも思い出すから……。


しかし、今年はこの男が思い出す暇を与えてくれないらしい。


「姫さぁん!明日の取材の予定、ここに置いときます。この原稿もチェックして戻せって預かりました。あ、あと俺と付き合ってくださいね。」


…ついでのように言わないで欲しい。


「沖田くん、いい加減にしなさいよ。私はね、仕事を真面目にやらない人には興味がないの。」

「姫さんの理想のタイプに近づけるように、めちゃくちゃ仕事頑張ってますよー。将来有望です!今のうちに押さえときませんか?」

……疲れる。


教育係としての接し方を間違えてしまったのか、何なのか、私はコンビを組む沖田駆(おきた かける)くんに先日告白をされてしまった。完全な失態だ。

以来、毎日のように仕事の合間を縫っては、もう何度目か分からない薄っぺらい告白をされている。


奏ちゃんが私と仲良くなれるのは「ガンガン来る女」や「空気を読めない男」って言ってたけど、こいつは「ガンガン来る空気を読めない男」だ。ある意味、最強だと思う。

…仲良くしないけどね。

嫌なことを思い出す暇は与えてもらえないけど、例年以上に憂鬱は溜まっていく……。


私は、深い深いため息を吐いた。
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