キミがこの手を取ってくれるなら
居酒屋を出た私達は、並んで歩いていた。
引かれた手は、店を出たとたんに離されてしまった。じゅんたの顔をちらっと見る。
その顔には『私はとてもご機嫌ナナメです』と書いてあるような気がした。
「…ど、どこまであるくの?」
沈黙に耐えきれず、とりあえず聞いてみる。
「送る。」
「く、くるまは?」
「車だとあっという間に着いちゃうだろ?話がしたいんだよ。『いろいろ』とな。」
いや、むしろあっという間に着いて欲しいので、車がいいです…
「ところでさ、何なのあいつ?会社のヤツ?」ジロリ、と睨みながらじゅんたが聞く。
し、視線が怖いよぅ、痛いよぅ…
小さい頃から魔王の手下だった私は、この目に逆らうことができない。
「こ、こうはい…れす…」
思わず敬語で答えてしまう。
「あいつに口説かれてんの?」
「うっ……」
言葉に詰まる。『はい』と言ったも同然だ。
はぁー、とため息をつく音が聞こえた。
「俺、ずっと待ってるって言ったけど、おとなしく待ってるつもりもない。他のヤツにチャンスなんかくれてやるかよ。」
…そんなことを言われたら、反応に困ってしまう。顔が真っ赤になっていくのが分かった。
「奈子、明日は?」
「えっ?」
「あいつと二人っきりで取材じゃないだろうな?『ホテル』の。」
いやいやいやいや、違いますって!
「きたはらさんもいっしょ!あと、かめらまんさんもいるから!」
「カメラマンって男?」
「おんなのひと!」
これって、やきもち…なのかなぁと酔ってぼんやりとした頭で考える。