キミがこの手を取ってくれるなら

「あの日、家に帰って来てすぐに奈緒のとこに行ったんだよ。純が教えてくれたんだ」


「…知らなかった」

「奈緒は眠ってたからな。で、そばにいる純を見て気づいた。あぁ、こいつも奈緒のことが好きなんだなって」

面と向かって聞くことはできなかったけどな、と奏ちゃんは付け足した。

「でも、純の気持ちに気がついたことよりも驚いたことがあったんだ」


「……なに?」


「俺、二人が一緒にいるところを見て、嫌だとか、嫉妬とか、そういう感情が一切出てこなかったんだよ。子どもだったから…恋愛感情がよく分からないだけかと思ったけど、何年経っても、奈緒と純の距離が近づいていくのが分かっても、それは変わらなかった」


「それが自分のほんとうの気持ちに気づくきっかけ。でも、俺たちいつも一緒にいただろ?このまま俺もずっと側にいたら、また情だけで奈緒に気持ちを向けてしまいそうで、怖かった。その気持ちを抑えようとして距離を置いたんだ」

「それって、いつ?」

「ちょっとずつ……かな。いきなり離れるのはさすがに寂しかったからな。区切りをつけたのは、高校に入ってから。彼女ができた時」

「彼女のことは好きだと思ってた。でも彼女から別れを切り出された時に…言われたんだ。『2人の代わりにされるのはもう嫌!』って。そんなつもりはなかったけど、俺はずっと彼女を傷つけてた」

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