キミがこの手を取ってくれるなら
「懐かしいな、この場所」
「え?」
「ほら、小学校の時。サマーキャンプとかで来ただろ?向こうに大きな展望台があるんだよな?」
式場のある羽積山の周辺は、キャンプ場や宿泊施設なんかがあって、昔小学校でよく利用していた。
「泊まったりしたんだよな。オリエンテーリングとか、楽しかったなぁ」
「私は楽しくなかったよ。奏ちゃんも、じゅんたもいなかったから」
「覚えてるよ。小5の時、お前『奏ちゃんと行きたい』って泣きそうな顔で言ってたよな」
「…恥ずかしいこと覚えてるね」
「覚えてるよ。俺たちが中学に上がってすぐの夏休みで、奈子が髪を伸ばしはじめた頃だろ」
「そうだったっけ?」
「やっぱ、奈子は全然分かってないな」
「え?」
「いや、こっちの話。まだ時間あるから、展望台行ってみようか?」
***
展望台は、昔訪れたはずの場所なのに、記憶の中にあまり残ってはいなかった。
2人と一緒だった時以外の記憶は、なんとなく曖昧だ。それだけ小さい頃の私にとっては2人の存在が全てだったのだと思う。