キミがこの手を取ってくれるなら
「おい、純。調子に乗るなよ。手を離せ。」
いつの間にか奏ちゃんが隣にやって来ていて、じゅんたに不機嫌な様子で話しかけた。
…もしかして、新郎さんなのに、妬いてます?
慌てて横の志帆さんに目をやると、楽しくてたまらない、と言った感じで笑いを噛み殺していたので、ほっと胸を撫で下ろした。
「ヤダ。奈子はもう、俺のもん。」
まるで子どもみたいに言うじゅんたの横で苦虫を噛み潰したような顔をする奏ちゃん。
だから新郎さん、その顔はまずいって…。
見ていた私は、ただ苦笑いするしかなかった。
「あいつはな、人生最良の日にいちばん見たくなかった光景を今見てるんだよ」
「俺だって何年もやきもきしてきたんだ。これくらいの意地悪、可愛いもんだろ。…これくらいしか、あいつに勝てないからな」
繋いだ手を持ち上げながら、こっそり私にそう言うと、じゅんたはしあわせそうに笑み崩れた。
そんな顔を見せられてしまったら、もう黙るしかない。
だって…私もしあわせなんだもん。
繋いだ手だって恥ずかしいけど、嫌じゃない。心地よくて安心する。
…ふと、隣から奏ちゃんからの視線を感じた気がした。
見上げると、じゅんたと志帆さんからは見えないように私の目をじっと見て『静かに』と言った感じで人差し指を唇に当てていた。
口唇が、ある言葉を紡ぐ……
それを見た私は、耳まで顔が熱くなっていくのが分かった。
その私の表情を見て、奏ちゃんは満足そうに、にっこりと笑った。
その微笑みに動揺して、胸がいっぱいになってしまい、あんなに楽しみにしていた「Felicita」のお料理もなかなか喉を通っていかなかった。