キミがこの手を取ってくれるなら

「奈子が入院した時に、奏が俺のとこに来て、『いい加減、はっきりしろ』って言ったのは、そんな俺の気持ちにずっと気がついていたからだ、ってその時ようやく分かったんだ。」


「腹が立ったけど、熱があったから起きあがってケンカすることもできなくて…俺、その時情けなくて悔しくて泣いたんだよ。奏の前で。」


「そんな俺に、奏は『はじめて本音出しただろ』って…笑って言ったんだ。お前は言葉が足りない。それだけじゃ何も伝わんないだろ、って。…敵わないな、って思った。それが奈子に気持ちを伝えようと思ったきっかけ。奏に背中を押してもらわなかったら、俺はいつまで経っても奈子の側にいるだけのヤツだったかもしれないんだ。」

情けないだろ、とうつ向きながら、じゅんたは小さく呟いた。


それは、思いもよらない告白だった。


じゅんたがこれほど奏ちゃんに嫉妬や劣等感を抱いていたなんて知らなかった。


「昔はそんなこと、なかったのにな。いつか奈子の隣に立てる男になりたい、って思ってた。奈子のこと、『女』だって思ってからは、太って醜い自分じゃ奈子の隣に立てない。そう思って自分を変えようと必死に頑張ってたんだ。」


彼の初恋も、私と同じく長く想うほどに歪んで形を変えてしまっていたのかもしれない。

私達は似た者同士だった。

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