キミがこの手を取ってくれるなら
バージンロード

1、サムシングオールド・サムシングブルー


7月7日11時。
予約していた美容室へと到着した。

今、私のストレートのミディアムボブの髪は、くるくるとカールがかけられハーフアップの髪形へと整えられている。


その様子をじゅんたは「この長さでもまとめられるんだなー。すげーなー」などと言いながら、勝手に椅子を持ってきて私の横に座り、楽し気な様子でじーっと見入っていた。



ほんとに1日中私の側にいる気だったのね……


「純くん、いいかげんにしなよ。奈緒子ちゃんがうっとおしい、って目で見てるじゃない。気づいてないの?」
と呆れた声で、私のサイドの髪を編み込みしながらじゅんたに言ったのは、美容師の紫ちゃん。


葉山 紫(はやま ゆかり)ちゃんは、奏ちゃんとじゅんたと同じ年で、小学校からの同級生だ。

紫ちゃんはその昔、奏ちゃんのことが好きで、告白をした過去がある。

最初は正直あまりよい気持ちは持っていなかったのだけど、近所で彼女の母が営んでいるこの美容院に通ううちに、だんだんと打ち解けて仲良くなった。

紫ちゃんは市内のヘアサロンに勤めているけど、実家住まいなので休みの日にはここで私の髪を切ってくれたりする。二人で遊びに行くこともあり、まるで妹のように可愛がってもらっている。なにより、私達には「奏ちゃん」という共通の話題があった。


そんな紫ちゃんの言葉をさらっと無視して、うっとおしいよ、と言われた男は、

「お前、このワンピースだと、髪切らないほうが似合ってたかもな。髪まとめてうなじ見えてたほうが色っぽかったんじゃないか?」

などと、のたまっている。


奏ちゃんから婚約したと聞かされた日、私はここに駆け込んだ。泣きながら、腰まで伸ばしていた髪をばっさりと切ってもらった。

そんな事情もつつぬけな紫ちゃんには、わたしの今の気持ちが手に取るように分かってしまったらしい。鏡越しに目が合うと苦笑されてしまった。


もちろん、髪を切った理由は、じゅんただって知っている。


大体、私がうなじのひとつやふたつ見せて、色気が出たところで、何だっていうのだ。

このワンピースだって、今日のために買ったのに……

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