キミがこの手を取ってくれるなら
ずっと実家にいて一人暮らしをしたことがなかった俺は、遮光カーテンというものの存在をよく知らなかった。
デザインだけを気に入って買ったブルーのカーテンは、こんな天気のよい日に引くと、部屋の中が青に染まったように見える。
……海の中にいるみたいだな。
ベッドの中で揺れている俺たちは、ゆらゆらと、まるで海の中を漂っているようだ。
律動を繰り返す度に、彼女の表情に艶やかさが加わって、それを見ていると、どうしようもないくらいに胸が苦しくなる。
こうして、身体を重ねるようになってからのほうが、奈子を好きだ、っていう気持ちに歯止めが効かなくなった。
だって今までは知らなかったから。
服の下の、この抜けるように白い肌も、細いのに、抱きしめるとびっくりするくらい柔らかなその素肌の感触も。
この気持ちはどこまで深くなるんだろう。
抱きしめて触れるたび、重なるたび、切なくて息苦しくなって、俺は『はぁっ』と息をつく。酸素が足りない。求めるように、浅い呼吸を繰り返す。
まるで溺れているみたいに。
あぁ、そういうことか。とふと思った。
溺れてるんだ。俺は彼女に。
…俺は、奈緒子に溺れている。