キミがこの手を取ってくれるなら

2、主役になれない恋の話


俺の幼なじみは、王子と姫だった。

『王子』の小山奏一と仲良くなったのは、小学校に入ってすぐ。「おおむら」と「こやま」で席が近かったからだ。

単にそれだけのことで、それから20年近くも初恋に悩まされることになるなんて……。


はじめて奏の家に遊びに行った時、俺は運命の出会いをすることになる。


「なおちゃん!」奏が向かいの家で遊んでいた女の子に声をかけた。

「あ、そうちゃん!」嬉しそうに駆け寄って来たその子の顔から目が離せなかった。


ツヤのあるさらさらとしたショートヘアの黒髪を揺らしながら、奏の腕にギュッと抱きついてきたその子の瞳は切れ長だけど、黒目がくるくるとして可愛らしかった。口唇も薄紅色で、キレイな形をしていた。


あー、お姫様みたいな子だなぁ、と思った。
小さい頃読んでもらった昔話の中に出て来たような。


これが、俺と奥村 奈緒子との出会い。
完全に一目惚れだった。


……けど、恋心を自覚するには、俺は子ども過ぎたらしい。


「何言ってるか分かんない。暗いヤツだなぁー」奏にしがみついて、もごもご小さな声で話す奈子に照れ隠しで言った一言に、

「暗いって……ひどい!…純くんだって、タヌキみたいだよね!!」奈子が本気で怒った。


俺は、この瞬間に恋の物語の脇役になってしまったんだ。





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