キミがこの手を取ってくれるなら
奏のバイト先「Milky Way」は、カフェから程近い場所にあった。
卒業してからは奏とも会っていなかった。二人が付き合ってるとこなんて見たら、とても普通ではいられないと思ったからだ。
『向き合え』と黒い女に強引に奏のほうを向かされたけど、時間を置いたら逃げたくなってしまうかもしれない。そう思って、紫と別れたその足ですぐに「Milky Way」へと向かった。
店に入る足取りは重かった。
「……純。久しぶりだな。どうして分かったんだ?」
笑顔の奏。
その反応は一見普通に見えるけど、長い付き合いだから分かる。その笑顔は、嘘だ。
「近くまで来たから。紫からここでバイトしてるって聞いた。」どう話かけていいか分からずたどたどしく言葉を繋げた。
それ以上、何かを口にすることができずに、じっと奏の顔を見る。
奏は、目を反らした。
こいつも逃げてる。何となくそう思った。
カウンターの中にいた女性の店員さんが、カフェスペースへどうぞ、と勧めてくれたけど、今日は聞いても何も話さないだろうと思った。
「今日はあまり時間が無いので。」勧めを断り、店員さんに挨拶だけをした。
奏には「また、連絡するよ。」と告げて、「Milky Way」を後にした。