キミがこの手を取ってくれるなら

秋。その電話は突然やって来た。

「奈緒のこと、連れて一回こっちに遊びに来てくれよ。奈緒、忙しいって言って全然連絡寄越さないんだ。お前と一緒なら来るだろ?」


紫は「Milky Way」に最近行ったと言っていたけど、奏は奈子の事情を何も知らないようだった。


俺は夏以降、奈子に何度かメールを送ったけど返信はなかなか返って来なかった。
そんな矢先の奏からの電話だった。


わざわざ教えて波風立てることもないか……
その時、俺はそう思っていたけど、そうじゃなかったんだ。


何もかも、事情を知ってて、しれっとこういうことをするなんて……奏はほんとに、ずるいヤツだ。


しばらく会ってなかったから俺はすっかり忘れていたんだ。
こいつも紫と同じ種類の人間だってことを。


「Milky Way」で、バリスタの陽介さんが奏のことを「友達が少ない」と言ったので、軽い気持ちで「女友達は多そうだけどなぁ。」と言ったら、奏はとんでもない一言を返してきた。

「お前には言われたくないよ。『カオリ』ちゃん。」

どうして?!それを!

一瞬思って、すぐに思い当たった。


……紫のヤツ!余計なことを!!



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