キミがこの手を取ってくれるなら
「奈緒子ーいいかげん起きて、ごはん食べちゃいなさい!」
階段の下から母の呼ぶ声が聞こえる。
時計を見ると、もう9時を回っていた。
携帯のアラームは止めてしまっていたらしい。
…目が重い。
…頭も痛い。
正直、ご飯を食べたい気持ちではなかったけど、食欲が無いと素直に口にしたら昨日帰って来てからもずっと泣いていたことや、自分の今の気持ちも全部見透かされてしまいそうだった。
慌てて起き上がり、なるべく元気に聞こえるように明るく「はぁーい」と返事をした。
パジャマのまま階段を下りて、リビングに入ると呆れ顔をした母の横にもう一人の人物を見つけた。
その顔を見て、頭痛がいっそうひどくなったような気がした。
その男は、ダイニングテーブルに家族のように座り、ちゃっかりと朝食まで食べていた。
どうして…こんな朝早くから、家にいるの?
「じゅんた…おはよ。」
不機嫌な顔を隠すことなく、それでもなんとか挨拶をした。
「よっ、おはよう。」
挨拶を返した後、ちょっと驚いた顔になり、そしてまじまじと私の顔を見つめ、きっと母も気づいていたのに言わなかったであろう一言をあっさりと言った。
「奈子、目の周りどうしたんだ?腫れまくって凄い顔になってるぞ。…奏が見たらびっくりするだろうなぁー。」
そう言ってニヤリと笑った。
……最悪だ。
この失礼な男の名前は大村純(おおむら じゅん)。
私、奥村奈緒子(おくむら なおこ)のもう一人の幼なじみだ。