キミがこの手を取ってくれるなら
奈子が、俺のアパートに来た。
奏の婚約を聞いたら何か連絡はあるだろう、とは思ったけど、ここに来るとは思っていなかった。
アパートの前にいる奈子の姿を見て驚く。
腰まであった黒髪は、ショートカットになっていた。……初めて会った頃のように。
「髪切ったの紫だろ?」
あいつ以外には考えられない。
前髪の揃い方までおんなじだった。
「リセットしてくれたのかな?」と奈子が呟く。
「そうかもな。」と答えながら、動揺している自分に戸惑った。
リセット?どこまでだよ。
俺と一緒にいた日々までリセットする気なのか?
……苦しい。息ができないほど。
涙を必死で堪えている奈子に、なぐさめの言葉も思いつかなくてその短い髪を撫でることしかできなかった。
その時、偶然頭を撫でていた指先が首筋に触れた。
「…んっ」
身体を震わせながら、小さな喘ぎの息を吐いた奈子を見たその瞬間、理性がバラバラになって崩れていくのを感じた。
触れたい。抱き締めたい。
めちゃくちゃに壊してしまいたい……
自分の中にこんな衝動が隠れていたことにびっくりした。
奈子。お前が……悪い。