キミがこの手を取ってくれるなら
近所の居酒屋で、俺はすっかり気分が落ちていた。
女の『相談』は苦手だ。
ほんとに言いたいことは一言だけなのに、それを幾つもの言葉の束の中に隠して、混ぜて、なかなか出してこない。
すぱっと終われよ。
いつもそう思う。
俺がこんな感じだから、心を許してくれる人がなかなかいないのかもしれない。
「やり直して欲しい」
香織の言いたいことはその一言だけだろ?
いろんな話の中に隠さないでくれ。
その一言が来たらきちんと断ろう。そう思っていたけど、ただただ時間だけが過ぎていく。
……身体がだるい。少し気分が悪いような気がする。
ふと、香織から視線をずらしたその時、右側の奥のテーブルに座っている顔に見覚えがあるような気がして、視線を戻す。
……視線の先に、奈子がいた。
一緒に座っていた男が、奈子を連れて俺たちのほうの席までやって来た。
まずいとこを見られた。
そう思ってももう遅かった。
そして、奈子はその男とどんな関係なんだ?
俺や奏や紫以外にこうして飲みに来るような人がいるとは思わなかった。